当時は「ポンドを昔の価値に戻すために、インフレを解消しなければならない」と言われていましたが、ケインズはそれに反対しました。
ケインズは、インフレの問題を理解しながらも、今すぐに解決するべき、とは考えていませんでした。
失業者を増やすという代償が大きすぎると考えていたからです。
どんな意見の対立が起きていたのか、見ていきます。
2つの問題
ケインズの時代、大きな問題は2つありました。
インフレと、高い失業率の問題です。
ケインズは、まずは、高い失業率の問題を解決した方がいいと考えました。

なぜインフレの問題は後回し?
ケインズは、インフレの問題は後回しにして、失業者を救うことを優先しました。

2つの問題を同時に解決しようとは考えなかったの?
ケインズも「両方とも解決できるなら、それがいい」と考えていました。
しかし、この2つの問題は、同時に解決はできないのです。
なぜ同時に解決できないのか
失業者が多い時は、仕事がない、収入がない、お金がない、という状態です。
そんな時は、国民たちを「収入がある」状態にすることが大切です。

そうするために、働き口を増やすことが、解決策です。
例えば、ダムを作って、そこで働いてもらえば、人々は収入がある生活を送れるようになります。

お金をもらう人が増えると、お金が世の中に多く回るようになります。
失業者は助かるし、景気は良くなります。
しかし、インフレになりやすくなります。

シーソーのような関係
- 失業を減らそうとすると、インフレが起きやすい。
- インフレを完全に抑えようとすると、景気が冷えて失業が増えやすい。
という「シーソー」のような関係なのです。

片方が下がると、もう片方が上がります。
本当は、両方とも同時に解決できたらいいのですが、片方ずつしか解決できないのです。
インフレのデメリット
インフレは、なぜダメなのでしょうか?
それは、インフレになるとお金の価値が下がるからです。

インフレになると、お金の価値がどんどん下がっていってしまいます。
つまり、ポンドで買える物が少なくなっていくということです。
当時の政府は、「ポンドの価値が下がるのはマズイと感じていました。

お金の価値が下がると、大変です。
外国から「弱いお金」と思われてしまうからです。
外国から見ると「ポンドは前より価値がなくなったんだな」と思われて、お金への信頼が弱くなります。
そして「ポンドより他の通貨を使おう」と考える国や企業が増える可能性があります。

当時のイギリスは、世界の貿易や金融の中心でした。
そのため政府は、「ポンドは世界で最も信頼される通貨である」という状態を維持したいと考えていました。
だから政府は、「昔と同じ強いポンドに戻して、イギリスの信用を取り戻したい」と考えたのです。

インフレを止めるデメリット
しかし、そのために、インフレを止めようとすると、デメリットがあります。
失業者が増えてしまうのです。

ここで一番大事なのは「お金の価値を上げる」というのは「世の中のお金が使われにくくなる」ことだという点です。
まず、政府が目指したものは、インフレで低くなってしまったお金の価値を、再び高くすることです。

ただ、お金の価値を高くしてしまうと、困る人もいます。
パン屋さんからしてみれば、儲かりづらくなってしまうのです。

儲けが減ると、お店の人は困ります。
困った結果、「働いている人の給料を減らす」「クビにする」などのことが起きてしまいます。
こうして失業者が増えてしまうのです。
政府とケインズの意見の対立
イギリス政府は、「戦争前のように、ポンドの価値を元に戻そう」と考えていました。
当時の政府の考えは
- インフレで下がったポンドの信用を回復したい
- 国際的な金融の中心としてのイギリスの地位を取り戻したい
という考えでした。
つまり、政府が気にしていたのは、「日常生活で困るから」というよりも、国としての立場や経済的な影響力だったのです。
その結果として、インフレを改善する必要があると考えていました。
一方で、ケインズは「失業者を増やしてまで、ポンドの価値を戻す必要があるのか?」と疑問に感じていました。
つまり
- 政府は 「強いポンド」を優先した。
- ケインズは 「働く人たちの生活」を優先した。
という対立だったわけです。

ケインズは、「昔のポンドの価値に戻すために、国民全員の給料を下げて失業者を増やすのは、本当に必要なのか?」と疑問を持ちました。
ケインズにとって最も重要だったのは、通貨の価値そのものではなく、人々が働き、生活できる経済を維持することだったのです。
