投資とは
この記事では、投資という言葉は2種類の使われ方をします。
設備投資と、株式投資です。
設備投資とは、お金稼ぎに必要なものを買うことです。
商品を作るための機械を買ったり、仕事で使うための車を買ったりなど、仕事道具を買うこと、設備投資と言います。
買うときは、お金がかかりますが、その機械のおかげで、よりお金稼ぎのスピードがアップします。
一方で、株式投資とは、株を買うことです。
「あの会社がもっと成長しそうだなー」などと未来を予想して、株を買います。
両方とも、将来儲けるために、今お金を使う、という意味です。

投資を増やすために
ケインズは、景気を良くするためには、投資を増やすことが大切だと考えます。
投資を増やすにはどうすればいいのでしょうか?
ケインズは、意図的に投資を増やすのは難しいと考えます。
なぜなら、投資はけっこう気分とかその時の流行に左右されるからです。

設備投資
まず、設備投資から見ていきます。
合理的に考えれば、人々は、儲かるかどうかを計算した上で行動しそうです。
自分が作った商品がいくらぐらいで売れそうか、などを計算して、儲かると判断すれば、設備投資を行うはずです。
しかし、現実では、そうではありません。
自信がある時は、設備投資をするし、自信がなければしません。
みんな自分の勝手な思い込みで、設備投資をするのです。

ビジネスを立ち上げる人は、勢いと楽観的な気質がある人です。
そういう人々は、見込み収益の厳密な計算なんかまじめに見ないと、ケインズは言います。
厳密に計算したとしても、結局はビジネスは、マネージャーたちの能力や人柄の優劣にもかなり左右されてしまうものなので、計算はあまり当てになりません。
「やるか、やらないか、グズグスするくらいなら、やっちゃおう!」と、勢いに乗れる人は、心の中から湧いてくる衝動に従って生きています。
このような根拠のない自信や勢いのことをアニマルスピリットと言います。
設備投資は、ほぼ後戻りのできない大きな決断なので、最終的には、勢いが大事なのです。

起業家は、多少は利益の計算をするはずです。
しかし、いつも厳密な計算に基づいて動いてるとは限りません。
景気が良い時は、失敗しそうなことまで挑戦してしまいます。
一方で、景気が悪くなると、絶対に成功すると分かってることまで、挑戦しなくなります。
設備投資をするかしないかは、「儲かるかどうか」だけで決まるのではなくて、心理的な側面が強いのです。
株式投資
では、株式投資は、どうでしょうか?
株式投資は、本来であれば、儲かるかどうかを冷静に分析するはずです。
しかし、株式市場も、実は美人コンテスト並みの腹の探り合いによる投機に堕している、とケインズは言います。

美人コンテストとは、その人に実力があるかどうかではなくて、人気かどうかだけが見られます。
株式市場も、見込み収益などあまり計算せずに、みんなが買ってるから、自分も買う、という行動をしています。
会社の業績を観察するのではなくて、集団心理を観察しないといけないような状況になってしまっているのです。

株式市場は、自分の判断ではなく「他人がどう考えるか」を予測するゲームになってしまっていました。
投資家は百人の写真から最高の美女六人を選ぶといった、ありがちな新聞の懸賞になぞらえることができます。
賞をもらえるのは、その投票した人全体の平均的な嗜好にいちばん近い人を選んだ人物です。
したがってそれぞれの参加者は、自分がいちばん美人だと思う顔を選ぶのではなく、他の参加者たちがよいと思う見込みが高い顔を選ばなくてはならず、その他の参加者たちも、まったく同じ視点でその問題に取り組んでいるのです。
自分の判断として、だれが本当に最高の美女かを選ぶ、という話ではないし、平均的な意見で見たらだれが美人と判断されるか、という問題でさえありません。
平均的な意見は何になると考えるかを予測しようとして、みんなが頭を使うという第三段階に到達しているのです。
当時のアメリカの投資は、まるで価値の下がるババを他の連中に押しつけるゲームになっていました。
人々がやっていたのは「出発合図を出し抜く」ことです。

早すきもせず遅すぎもしないタイミングで「スナップ」と言った者の勝ち
ゲーム終了までにババを隣の人にまわせば勝ち
音楽が止まったときに自分の椅子が確保できれば勝ち。
こうしたお遊戯は、熱心に楽しく遊べますが、でも参加者全員が、ババがまわっていることは承知しているし、音楽が止まったらだれかは椅子なしになることも知っているのです。
このように、無知な人が多数派で、無知な集団が市場に影響を与えていました。
株式投資には、未来を予測する専門家がいますが、専門家にも問題があります。
それは、専門家が長期的な話をしても、誰も興味を持ってくれないことです。
専門家が真面目に長期的な未来を予想してくれれば、無知な投資家の気まぐれが矯正されるはずです。
しかし、投資をする人々のほとんどは、投資を長期的に考えません。
短期的に儲かる話を、ほかの人よりも、ちょっと早く知りたい
というのが世間のニーズです。
そのため専門家は、大衆心理が大きく影響しそうな短期的なニュースばかりに、エネルギーを使っていました。

本気で会社の業績を観察してる人もいましたが、少数派だったので、その行動が市場を左右することはありませんでした。
多数の無知な個人の群衆心理の結果が、株価を左右していたのです。
投資家たちが会社の業績を見てないんじゃ、会社が儲かりやすい社会を作ったとしても意味がありません。
そのため、意図的に投資を増やすのは難しい、とケインズは言います。
バブルは危険
このように、投機(ギャンブル)が支配的になる危険だと、ケインズは言います。
他人に流されてばかりの人が多数派になると大変です。
意味もなくバブルが起きるからです。
事業の安定した流れがあれば、その上のあぶくとして投機家がいても害はありません。
でも事業のほうが投機の大渦におけるあぶくになってしまうと、その立場は深刻なものです。
ある国の資本発展がカジノ活動の副産物になってしまったら、その仕事はたぶんまずい出来となる、とケインズは言います。
投資を増やすために必要なもの
投資を増やすために必要なものは、アニマルスピリットです。
人間の天性が持つ特徴として、みんなが不安なときは、自分も不安になってしまうというものがあります。
アニマルスピリットが衰えて自然発生的な楽観論が崩れると、今まで頑張ってた挑戦も一気に崩れてしまいます。
その時、根拠のない不安が広がって、景気を悪くさせます。
起業家たちは、挑戦の途中で「最終的に損をするんじゃないか」という考えに襲われるかもしれません。
しかし、アニマルスピリットの働きがあればこそ、そんな不安も振り払うことができます。
人が死を恐れていても、普段の生活の中でそれを無視できるように、起業家は、失敗を恐れていても、普段の生活の中ではそれを無視できるのです。
最後に
投資をする人が増えれば、景気が良くなります。
しかし、投資は、景気や、政情の変化、心理、気分、雰囲気、さらには天気によって左右されます。
人は、基本的には、儲かるかどうかで、行動を決めますが、ケインズは「不安かどうか」によって、人の行動が変わることも無視してはいけないと考えました。