累進課税とは、お金持ちから、ゴッソリと税金を取ることです。
お金をたくさん稼いでいる人は多くの税金を払います。
一方で、あまり稼いでいない人は少ない税金ですみます。

累進課税では、お金をたくさん稼ぐほど、たくさんの税金を取られてしまいます。
お金持ちの人にとっては、税の負担が大きいです。
「たくさん税金を納める」ことを、「税金の負担が大きい」と言います。
「負担」とは「苦しさ・しんどさ」のことです。
累進課税のメリット
メリットは、貧富の格差を改善できることです。
お金持ちから集めた税金を、医療や教育、福祉などに使うことで、生活が大変な人を助けることができます。
その結果、お金の差が広がりすぎるのを防ぐことができます。
お金持ちは、税金をたくさん納める能力があります。
なので、お金持ちからたくさん税金を集めるのは、良いアイディアです。

累進課税で喜ぶのは、貧しい人だけではありません。
累進課税のおかげで、経済全体が活性化します。
その理由は、貧しい人は、お金を得るとすぐに使うからです。
たとえば、政府が集めた税金を使って、低所得の人に支援金を出すと、その人たちはすぐに食べ物や家賃などに使います。
貧しい人は「買いたいのにお金がない」というのがずっと続いている状況にあるので、お金に切羽詰まっています。
そのため、お金が手に入ると、貯金する余裕もなく、すぐ使うのです。
「買い物をする」ということは「お客さんとして、モノを買う」ということです。
すると結果的に、お店が儲かります。
貧しい人は、買い物をしてくれるので、経済が回るようになります。

お金が使われると、お店や会社が儲かり、経済が回るようになります。
一方で、お金持ちはお金をたくさん持っていても、使わずに貯金してしまうことが多いです。
貯金ばかりでは、経済があまり動きません。
お金を使う人の手にお金が渡った方が、経済は元気になります。
つまり、景気を良くするためには「貧しい人がお金を持つこと」が大切なのです。

また、歴代の経済学者も、累進課税に賛成しています。
イギリスの経済学者ケインズは、貧しい人にお金を渡すことで、景気がよくなると考えていました。
また、フランスの経済学者トマ・ピケティも、『21世紀の資本』という本で、「お金持ちにもっと税金を払ってもらうべきだ」と主張しています。
累進課税のデメリット
累進課税のデメリットとしては、働くモチベが下がる、と言われています。
お金をたくさん稼いでも、高い税率で大きな額を税金として取られてしまうことがあります。
そのため、「がんばって働いても、ほとんど税金で取られるなら、働く意味がない」と感じる人もいる、と心配する人がいます。
本当にモチベーションは下がる?
では、実際にどうでしょうか?
「働く気がなくなる」と言われることもありますが、それを裏付けるはっきりした証拠は今のところ見つかっていません。
例えば、経済学者のアビジット・バナジーとエステル・デュフロらの研究では、「所得税率を上げても、働く量の変化は非常に小さい」という結論が出ています。

直感的な説明になりますが、想像してみてください。
累進課税が導入されたからといって、すぐに「働く気がなくなった」と言って仕事を辞める人がどれくらいいるでしょうか。
基本的に、ほとんどの人は引き続き働き続けます。

アメリカでの事例
アメリカでは1970年代に非常に高い累進課税(最高税率70%)がありましたが、1980年代にレーガン政権で大幅に減税されました。
しかし、一人当たりGDPの成長率を見ると、劇的に上がったわけではありません。
「税率を下げれば経営者のモチベーションが急に上がって成長率が跳ね上がる」という単純な関係は見られませんでした。

日本での事例
また、日本でも1980年代は所得税の最高税率が70%近い時期がありました。
それでも、その時代の日本の企業家や高所得者が一律にモチベーションを失っていたでしょうか。
むしろ、日本経済は当時とても活発でした。

北欧とアメリカを比べる
さらに、税率の高い北欧諸国を見ても、国民が怠け者というわけではありません。
逆に、アメリカのように税率が比較的低い国でも、特別に「働き者」というわけでもありません。
つまり、「税率が高いと働く気がなくなる」という単純な図式では語れないのです。
文化や社会保障、制度など、さまざまな要素が人々の働き方を左右するため、税率さえ下げれば、経済が発展するとは言えません。

税率は「やる気」とほぼ関係がない
累進課税を下げても、経営者や高所得者の生産性やイノベーションが劇的に高まったという証拠はほとんどありません。
多くの研究で「税率によって、労働供給や経済成長が大きく変動するわけではない」という結論が出ています。
また、ビル・ゲイツのように「富裕層こそもっと税金を払うべきだ」と主張する人もいます。
実際、彼は富裕層への課税を求める「Millionaires for Humanity」に署名し、「私の税率は低すぎる」とも発言しています。
今の累進課税だけでは不十分
フランスの経済学者のトマ・ピケティは、いまの税制のままでは不十分だと考えています。
ピケティは、資本税の導入を提案しました。
ピケティは、累進課税だけでは、世界の貧富の差を解決することができないと考えています。
なぜなら、累進課税は、働いてる人からお金を取るのであって「お金を持ってる人」からは、税金を取らないからです。

つまり、一番トクをするのは、親がすごい金持ちで一生働かずに生きていける人です。
そのため、ピケティは「お金を持ってる人」から、税金を集めるべきだと考えました。
これは、新しい税金です。
その税金の名前は「資本税」です。

資本税とは、お金を持ってる人から集める税金です。
世界のスゴイお金持ちは、家賃や株などを使って、働かずにお金を儲けています。
お金でお金を増やしているのです。
こうして、世界のお金持ちは、どんどんお金持ちになり、世界の貧しい人たちは、どんどん貧しくなっています。
そのため、ピケティは、スゴイお金持ちたちに、税金をかけて、貧富の差を減らすべきだと主張しました。

最後に、トマ・ピケティの言葉を紹介します。
「怠けたことで貧しくなったのであれば、それは自己責任。しかし、現実の世界では、貧しい人たちは怠けていないのに貧しい」
仮に、怠けたせいで貧しくなった人がいたとして、その子どもたちも、貧しさに苦しむべきでしょうか?
生まれながらに未来が決まっている人生は、自暴自棄になる人を増やし、国の治安を悪化させる可能性もあります。
累進課税は働くモチベーションを大きく損なうものではありません。
むしろ、格差を是正し、挑戦する人を増やし、社会全体を豊かにするための手段なのです。