ケインズは、『雇用・利子および貨幣の一般理論』という本の中で、名目賃金と、実質賃金の違いについて触れています。
名目と実質は、何が違うのでしょうか?
名目とは、「見かけ上」ということです。
実質とは、「本当の内容」ということです。
名目賃金と実質賃金がどのように違うのか、具体的に見ていきます。
名目賃金とは
まず、名目賃金とは、賃金そのものを指します。
賃金の金額のことが、名目賃金です。

実質賃金とは
一方で、実質賃金とは、物価の変動を考慮した数字です。
実質賃金の数字は、賃金と物価の両方に注目します。
もらった賃金で、どれだけ買い物ができるかを表すのが実質賃金です。

たとえ話
たとえ話をします。
ある日、青年の賃金が100万円になったとします。つまり、名目賃金が上がったとします。
そしたら、青年は喜びます。
人は、名目賃金が上がるだけで嬉しいのです。
しかし、パンの値段も100万円になったら、どうでしょうか?
実質的には、豊かになっていません。

彼の名目の賃金は100万円です。
しかし、名目の賃金が高くなっても、パンの値段も同時に高くなったら、生活は豊かになりません。
実質的には、生活の質は上がっていません。
実質賃金は、上がっていないということです。
賃金が上がればいいってわけじゃない
賃金は、上がれば良いってわけではありません。
人は、生活の質を豊かにしたいのです。
賃金が上がっても、パンの値段も上がってしまったら、生活の質は豊かになりません。
だから、賃金が上がれば良いというわけではないのです。
古典派は「大事なのは、実質賃金だ」と考えました。
名目賃金ではなくて、実質賃金を考えながら生活した方がいいのです。

賃金が下がっても、大丈夫
古典派は「賃金が下がっても大丈夫だ」と主張しています。
名目賃金が下がっても、実質賃金が下がっていない場合もあるからです。
具体的にいうと、物価が下がっているときです。
賃金が下がっても、パンの値段も下がるのであれば、生活の質は変わりません。
だから、物価が下がっている時は、労働者の賃金をどんどん下げていいのです。

古典派は、世界恐慌のとき「賃金は下がっていい」と主張しました。
世界恐慌のときは、物価が、どんどん下がっていました。
「賃金が下がる=貧乏になる」というわけではないです。
物価が下がっているなら、名目賃金も下がるべきなのです。
そのため、古典派は「名目賃金を下げるべきだ」と主張しました。
人は、名目賃金に注目する
しかし、ケインズは、古典派に反論しました。
ケインズは「普通の人は、名目賃金に注目してしまう」と言いました。
名目賃金は分かりやすいからです。
実質賃金は、物価を考慮して計算する必要があります。
普通の人は、そんな計算をしません。
普通の人は、物価の上下にかかわらず、賃金が減ればとりあえず悲しみます。
そして、あわてて節約を始めてしまうものなのです。
節約する人が増えれば、お店が儲からなくなり、経済が停滞します。
だから「名目賃金が下がることは、よくないことだ」とケインズは考えました。

名目賃金が下がると、世の中に「不安」が広まり、景気を悪化させます。
そのため、ケインズは「労働者の名目賃金を下げてはいけない」と主張しました。